ボクの世界はこんなにも
「ボクが居るにはあまりにもこの世界は小さすぎる」
綺麗な顔で君は言った。空色と君の髪はまるで同化してしまうじゃないかって程ぴたりと合っていて、目が眩む。
「意味分かんない。何、俺様キャラでも狙ってるの? それとも厨二病患者ですか?」
「毎日毎日同じことの繰り返しでさ、窮屈で窮屈で仕方ないんだ」
気持ちよさそうに両手を広げてる姿は、とてもじゃないけどそんな風に思っているようには見えなかった。
「自分から何かしようとか努力していないだけでしょ?」
「そうかもしれない。全部全部、ボクの言い訳なのかも」
あははっと爽やかに笑う君。いつもは見えない八重歯がちらりと見えて、少しだけドキリとして、少しだけ泣きそうにもなった。
「……どうしてもいくの?」
「うん」
ちょっとした好奇心に負けてね。おどけたように言う彼を止める勇気なんて、残念ながら私は持ち合わせてなんかいない。もし言っても彼はきっと、決意を曲げたりはしないのだろう。
「向こうにいってもいじめられたりしないでよ?」
「努力するよ。……ああ、いく前に一言だけ」
くるりと背を向けた君の後ろ姿は、近いはずなのにとても遠い。手を伸ばせば届く、届くはずなのに手が伸ばせない。悪循環。
「君が居る世界を手放すのは少しだけ惜しかったかな」
じゃあね、その一言を聞いた途端弾かれたように手を伸ばした。届かない。届くはずがない。彼は静かに向こうの世界へと飛び降りた。
別世界への片道キップ
(逝かないで)(その一言がどうしても言えなかった)