「暇なんで構ってやってください」
「そうか、帰れ」
ゴロゴロと彼のベッドの上でクッションを抱き枕代わりに転げまわる。転がりすぎて壁に顔面を強打したけれど彼は鼻で笑うだけだった。うわ薄情者。
「知ってる? ウサギは寂しすぎると死んでしまうんですよ」
「知ってるけどお前立派に人間やってるよね。ウサギには到底見えない」
ピコピコと機械的な効果音が彼の手元から聞こえ、思わずうーと唸ってしまう。可愛い幼馴染様が遊びに来て居るというのに何ゲームなんてやってるんだ。
「じゃあしりとりしよ、しりとり」
「今ドラゴン倒してるから無理」
「りんご」
「ご飯」
「……料理」
「リボン」
「死ねよ」
「何この子怖い」
怒りに任せてクッションを投げつけるも軽々受け止められ私の不機嫌パラメータは更に上昇を続ける。ああもう暇、暇なんです。
「……あ、そういえば私弟君に会いに来たんだった。嫉妬した? ねえねえ嫉妬した?」
「大変残念なことですが俺に兄弟なんて存在しておりません」
「作戦失敗。次の作戦を考えよう」
「帰れ」
そんな会話を繰り広げていても尚、画面から一ミリも目を離さない彼に少しだけむくれてみる。と、ポケットの中に何か固い物を感じ取り引っ張り出して確認してみると、ピンと頭の中で早速次の作戦が思い浮かんだ。我ながらこういうことに関してだけは頭が良く回転するな、とは思う。仕方ない仕方ない。
「あー、暇だなー! 暇過ぎて最近ちょっと気になるクラスの男子に電話しちゃおっかなー!」
「限りなくわざとらしいな」
適当に携帯を操作し電話帳を開いて左手をメガホン代わりに叫べば、そんな一言で軽くかわされた。……これはもう駄目だ。諦めたほうが吉だな。仏の顔も三度まで。これまでの経験上、もう相手にはしてくれないだろう。
少しだけ落ち込み、電話をする気は全く無かった発信ボタンを押して軽く耳に押し当てる。画面をろくに確認していなかったせいで、誰に繋がるのかは未知の世界、ちょっとしたあみだくじ気分だ。不安半分、期待半分で何度か鳴り響くコール音に耳を澄ませれば、前触れも無しにプツリと電波が繋がり自然と背筋が伸びた。
『はいもしもし』
「もしもし私ですけど」
『もしもし俺だけど何やってんの』
「……」
恐る恐る彼の方を振り返ると私と同じような体制で携帯を耳に当て、こちらを観察するかのように身体ごと私の方へと傾けていた。彼が喋る度に聞こえてくるステレオボイス。……発信先を確認しなかった結果がこれだよ!
「……か、帰るわ。どうもお邪魔しましたー」
そそくさと扉の方へ向かうも足を引っ掛けられ「ぐふっ」と派手に転げる。カーペットが敷かれてて良かった。直で床とご対面してたら余裕で鼻が曲がる悲惨な結末が待ち受けてた。
「へー、俺が『クラスで仲が良い何だか気になる男子』なんだ。ふーん」
「記憶力良いね、凄いなー。じゃあ私はこれで!」
「ちょっと待とうか」
「うぐっ」
腕と足を駆使し四足歩行で脱出しかけた私の身体は、背中にかけられた質量によって簡単に押し潰されてしまった。こ、こいつ乙女の背中に馬乗りしやがった……! 私を乗り物か何かと勘違いしてるんじゃないんですかこの野郎。
「丁度ゲームの電池切れたばかりなんだよね。今なら相手してあげられるよ?」
「そのゲームのBGMばりばり聞こえてくるんですけど」
「俺には聞こえないな」
「耳取り替えてきてください」
「嫌だよ。……どさくさに紛れて逃げようとしないでくれません?」
カサカサと某黒光りの生物のごとく蠢く私の背中を上から再度床に押し付けられびくりと肩が震える。
「なぜバレたし」
凄く、凄く身の危険を感じるのです。いやあの物理的な方ではなく何というか、
「逃がす気なんて無いから」
表情は見えないけれど彼が舌なめずりしているような、そんな想像はきっと気のせいだ。……気のせいであって欲しい。
狼に睨まれたウサギさん
(草食動物をいじめないであげてください!)