奪っちゃった
「という訳で用意してみました」
「どういう訳かさっぱり分からん」
愛猫と愛ハムスターの首根っこを掴み膝の上に乗せて正座をしている私をジト目で見つめてくる彼。ちなみにここは彼の家だ。わざわざこの暑い中二匹分のケージを持って大移動してきた私を誰か褒めて欲しいと思う。偉いぞ私良くやった。
「いや、だから聞いたことない? CMで人形を唇に押し付けて『奪っちゃった(はぁと)』ってやるやつ。あれ見たら興奮してミルフィーユ一枚ずつ剥がしちゃうやつ」
「お前の体験談は良く分からないがとりあえず理解はした」
「で、私は普通にやってもつまらないかと思いこちらを用意したのです」
「そこは普通にやってもらいたかった」
でーんと効果音が聞こえてきても可笑しくないくらいに二匹の首根っこを掴み差し出すと、タイミング良く猫もにゃあと一声鳴いた。その内の一匹を彼の手の上へと移動させる。
「はいどうぞハムスター」
「何で俺にハムスター?」
「動物同士で奪っちゃったってやると強烈に可愛いかなーと思って」
「どう見ても捕食する側とされる側だろ。止めてやれよ」
「仕方ない、普通にやるか」
猫を抱っこしながら側に寄り、よいしょっと猫の口を彼の唇へと近づける。もう少し、あとちょっと。この辺……良し。
「奪っちゃった!」
「唇めっちゃ噛まれてるんだけど。止めさせて」
「きゃー恥ずかしー!」
「恥ずかしがるのは後でで良いからとりあえず止めさせて痛い痛いあいたたた」
我が愛猫を慌てて引き剥がすと、何がそんなに気に入らなかったのか毛を逆立てながら思い切り牙を剥いて威嚇している。普段はこんなことする子じゃ無いんだけどな。運が悪かったねとしか言えない。
「ごめんごめん。やることもやったし今日は帰るわ」
「何しに来たんだお前」
じゃあね、と一言言い放ちハムスターと猫をゲージに入れようとする、が中々入ろうとしない。この野郎と無理やり収めるべく四苦八苦していると「あ、ちょっと待った」と肩を叩かれ溜め息混じりに振り向いた。
「ちょっと、今ご覧の通りお取り込み中なんだけっ……?」
むに、と唇に優しく突き刺さる何か。少し視線を下に向ければそれは指で形作られた狐の形をしたもので。
「…………」
黙ったままの彼を見れば少し顔を赤くしていて、聞き取れるかどうかの声で小さく呟いた。
「奪っちゃった」
(……可愛すぎるんですけど)