「……んじゃ、開けても良いか?」
「勿論でおじゃる!!」

 袋を開けていく彼の姿を尻尾を振りながら見つめる。気に入ってくれるといいけど。

「…………。よし、これは何だ」

 袋を取り終わり、箱を開けて中身を確認した彼の顔がヒク、と引きつったのが分かった。……あれ、何かあったのだろうか。

「何って、見て分からないでおじゃるか?」
「いや、分かる、分かるわ。分かるが、俺様が聞いてるのはだな」

 細長い箱から中身を取り出し、私の目の前にグイッと突き出す。顔に近すぎて、思わず寄り目になりながらもソレを確認した。間違いない、私が中に入れたものだ。

「……何で、白の色鉛筆が入ってるんだよ」
「え、何かおかしいところがあるでおじゃるか?」
「おかしいところだらけだよ馬鹿。まず一つ、何でこのチョイスなんだ」
「だ、だって私、プレゼントなんて何をあげれば良いか分からなかったでござる」
「……二つ、何で色鉛筆の端の方に置いてありそうな色を選んだ」
「私が持ってる中で一番長かったでおじゃるから」
「……三つ、何で芯が折れてるんだよ」
「あ、鉛筆削りもプレゼントの中に入れておけば良かったでござるか?」
「それ以前の問題だ」

 何でだろう、彼の額に怒りマークが浮かび上がっている気がする。気のせいだろうか。少なくとも、私が想像していた彼の姿とは違う。

「つ、つまり…嬉しくなかったのでごじゃるか?」
「白い色鉛筆もらって嬉しいやつはまず居ないだろうな」
「…………」

 先ほどまで元気に振られていた尻尾が、力なく床へと垂れ下がる。喜んで、もらえなかったんだ。悩んで悩んで、やっと決めたと言うのに。目の前が滲み始め、木で出来た床がぐにゃぐにゃと歪んでいく。一滴目から涙が零れ落ち、一瞬視界がクリアになってから、床へと小さな染みを作って浸透する。

「ちょ……お、おい泣くなよ」
「おじゃぁ……」

 俯いていて彼の姿は見えないけれど、声は何だか焦っているように聞こえた。

「な、落ち着けって……おい」
「おじゃ…おじゃるぅぅぅ!! ござ、おじゃござる、ござおじゃあぁぁぁ!?」
「泣き声までそれかよてめぇ。自分で言って混乱するんじゃねえよ」

 ぽんぽん、と頭に暖かい感触がくっついたり離れたりしているのを感じる。どうやら彼が私の頭を撫でてくれているらしい。

「ほら、俺様は嬉しいから。泣くんじゃねえよ」

 赤子をあやすように規則的に繰り返される頭の感触が心地良い。初めこそがむしゃらに泣いていたけれど、少しづつ、少しづつ自分が落ち着きを取り戻すのが分かった。

「……落ち着いたか?」
「おじゃ……」

 はぁ、とため息が聞こえ、頭の感触がふわりと無くなった。何となく名残惜しく、そっと撫でられていた箇所に自分の手を乗せる。

「ったく……本当、面倒なやつだな」

 何で俺様はこんなやつを拾ってやったんだか、と再度ため息をつかれる。そう。私は、猫娘になってばかりで途方に暮れていたときに、この屋敷の前で彼に拾われたのだ。
 後で聞いたのだが、ここはドラキュラ……つまりは、彼の住居だった。見た目が不気味なせいか、滅多に人は寄り付かないらしい。……いや、ごくたまに人が迷い込むことはある、けど。霊感が強い人間にしか私達の姿は見えないらしく、大体の人間はそのまま何もせずに帰っていく。なので、こんなゆったりとした平穏な暮らしが送れるのだ。

「ほら、俺様がありがたくもらってやるから。感謝しろよ」
「何か違う気がするでござる……」

 何で私が感謝しないといけないのだろうか。……まあ、彼が嬉しそうだから良しとしよう。千切れるのではと思うぐらいに尻尾を振り、顔がにやけるのを感じた。さてと話題を変えるように彼が声を漏らし、白い色鉛筆が古ぼけて今にも崩れ落ちそうな机に置かれる。

「トリックは一体何なんだ?」
「……トリック? トリックアンドトリートってプレゼントをあげる敬意の言葉じゃないのでござるか?」
「そもそもプレゼントをあげるっていうのが間違ってるからな? トリックってーのは簡単に言えばイタズラっつー意味だ」
「へえ……初耳でおじゃる」
「良く知らねえのに使うんじゃねえよ」

 眉を潜め不機嫌そうな顔をしたけれど、すぐに口の端を持ち上げて意地悪そうに笑った。綺麗な弧を描いている口元は、三日月のようにも見える。

「じゃ、さっきのプレゼントのお返しをしてやるよ」

 音を立てて開け放たれた窓から月の光が部屋の中へと流れ込んでいく。いつの間にか雲が月の側を離れて流れていってしまったらしく、月の輪郭がくっきり空に浮かび上がっていた。

 ひんやりとした風が頬を撫でていき、何だか心地よい。彼の赤い瞳を、吸い込まれてしまうのではと思うぐらいに見つめる。月に照らされた彼は、何故か酷く妖艶な雰囲気を出していて、目が離せなかった。

「……ほら。イタズラしてやるからおいで?」

 綺麗に、けれどどこか妖しく笑う彼を見て、改めて「彼の恋人で良かったな」だなんて再認識をして。尻尾をぶんぶんと狂ったように振り回しながら。差し出された手に向かって飛びつくように勢いよく手を伸ばした。


はっぴーはろうぃん!
(どうか人間の皆様にも幸せなハロウィンが送れていますように)(でおじゃる!)