マフラーと私と君と

「…………」

 闇に包まれ静まり返った校舎。ドアノブを回す音が沈黙を破って夜の校舎内に響き渡り、錆付いた扉は決して心地よいとは思えない音を立てて開け放たれた。一歩足を踏み出すと、足音がやけに大きく響き渡る。それほどまでに、この学校は静まり返っていた。
 ……正確には、学校は学校でも現在では生徒一人通うことの無い“元”学校なのだけど。

 目的地に辿り着くまでの道のりには、何年も放置されていたという痕跡が嫌でも目に映り込んだ。
 転倒したままの机と椅子。埃や蜘蛛の糸が被さって床に散らばっている無数のガラスの破片。放置されたグラウンドに、根を思い思いに伸ばす雑草。そして、たった今私が開放した屋上へと繋がっている鍵の掛かっていない扉。

 一歩、また一歩と着実に歩を進ませる。夏休みが明けまだ間もないこの季節は、夜でも蒸し暑く生暖かい風が頬や首を撫でていった。……暑い。
 手すりもフェンスも何もなく、ただ足元に一つ段差があるだけの簡易的な仕切りがある屋上の端まで歩み寄り、そこで足を止める。

 綺麗。
 少し高台に位置するこの屋上から眺める景色は、少し離れた街の夜景を見るのに最適の場所だった。自然の物ではなく人工的に作られた景色だけれど、綺麗なことには変わりはない。……まあ、私は夜景なんか眺めるために、わざわざ屋上にきた訳じゃないんだけれど。

 電気の集合体から目を離し、足元へと視線を移す。先程の人工的な光は一切存在しておらず、ただただ下へと闇が広がっているだけだった。
 首元に緩く巻いた赤いマフラーが生暖かい風に乗ってひらひらと舞っている。不規則に揺れ動く赤と、どこまでも続いているように錯覚する黒が混ざる様子は、先程の夜景に負けないぐらいにき「綺麗」

「……!?」

 不意に背後から聞こえてきた中性的な声に、思わず肩が飛び跳ねる。反射的に、声の聞こえてきた場所へと視線を移した。

「………………」

 目を見開いてしまった。自分で言うのも何だけど、あまり感情が表情へと現れることの無い私が。
 そこに立っていたのは、闇に溶けているような錯覚に陥る程綺麗な黒髪を持つ、恐らく私と同い年であろう少年だった。声も中性的だったのだけれど顔立ちも負けず劣らず中性的で、女装をしたら間違えられるのではないかと思うぐらいに綺麗な顔立ちをしている。……思わず息を呑んだ。

「……君、ここで何してるの?」

 それはこっちが聞きたい。私のような目的がある人物以外はここに来る理由が無い。それとも、彼も私と同じ目的を持ってここに辿り着いたのだろうか。……ううん、それも違う気がする。何となく、だけれど。
 彼は私を無表情でじっと見ており、表情からは何を思案しているのかを推測するのは難しかった。頭の中で疑問が数個飛び交ったけれど、表情には出さないようマフラーに顔を半分埋める。