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「綺麗でスね、お嬢様」
花を踏みつけてしまわないよう細心の注意を払い、尚且つ車椅子の主人に負担がかからないようゆっくりと慎重に押し歩く。
「あ、あアいえ! 今のは花が綺麗という意味で、そノ、とっ特に深い意味は……!」
両手をあちらこちら振り回して慌てふためいている僕とは対照的に、彼女は別段気にしていない様子で何とも複雑な気分になる。話を誤魔化すように辺りを見渡し「あの桜の木の下で昼食にしまシょう」と車椅子の向きを変えて指差した。
この広すぎる庭の中でも一際天に伸びて目立つ古い巨木は、いくつもの桃色の欠片を惜しげもなく地に落とし続けている。その大きな木の根にシートを簡単に敷いて、その上に彼女を優しく、壊れ物を扱うように座らせた。
手近に生えていた花を数本摘み、簡単に輪を作って彼女の頭に乗せる。色とりどりのその冠は彼女の淡いベージュ色の髪と良く合っていた。
ふふ、と少し微笑み、手作りのバスケットからサンドイッチを取り出してナプキンと共に彼女の膝の上に乗せる。
「今度こそお召し上がりくださイね? お嬢様の大好物な林檎も一緒に挟んでいますかラ」
では僕は少し見回りをしてきますと簡単に告げると、彼女は体を木に凭れさせて寛いでいるようだった。