PM 6:00
「……お嬢様、そろそろお部屋に戻りましょうか」
ちらりと窓を見れば大分外は暗くなっていて、いけない、お嬢様のお身体に障ってしまう。椅子に置かれていた毛布を彼女の肩に掛け暖を取り、そのまま両手で包むように手を摩った。
冷たい。一言に春とは言っても夜はまだまだ冷える。毛布の量でも増やしておこうかな。
本をそのままにして車椅子のストッパーを上げる。温かいものでも食べて芯から暖まらないと。
「……って、ああアあ!」
そこで一つ重大な点に気付いてしまった。
どうしよう、夕食の準備をすっかり忘れていた。
「すみマせん、お嬢様!
今から夕食をお作りしますのデ、その、少しお部屋で暖まってお待ちくだサい!」
小走りで廊下に出れば、月明かり以外一つも明かりが点っていない。
お嬢様は暗いところがお嫌いだったはず。マッチを摺り火を起こし、歩きながら一つ、また一つとランプに光を灯していった。
部屋の前に着いて後ろを振り返れば、光が僕たちを優しく見守っているように辿った道を照らし出していて。……後で消しておかないと。
「では行ってきマすね。楽しみに待っていてくだサい」
そう額にキスを落とし、ベッドに優しく彼女を寝かせて笑いかけてから、扉を音を立てずに閉めた。