お茶の時間

「お久しぶりです」
「せ……先輩! こんにち、ああいえ、お忙しいところすみません!」
「いえ、お気になさらずに」

 小さく電流が走っているかのような感覚に陥ってしまった足を我慢し、慌てて正座をし直す。予定の時刻より少し早く姿が見えた客人は、どうぞ普段通りでお願いしますと着物の袖で口元を隠した。
 足が痺れたことを隠していた私に気付いたのか、目を細めいつものクスクス笑いで隣に移動してくる。……ま、まさか。

「えい」
「っひ!」

 つん、と男にしては細い指先が足裏に触れ、そこを中心に突如走り出す電流。とても座っていられなくなり、足は極力動かさないようにしたまま上半身だけを畳に向かって前のめりに倒してしまった。

「っくぉぉ……!」
「相変わらず貴方は見事に期待を裏切りませんねぇ」

 行き場の無い手で宙を掴んだり離したりを繰り返し何とか耐えていると、頭上から痺れを生み出した張本人の控えめな笑い声が降ってくる。

「……あ、相変わらず茶目っ気がおありのようでっ何よりです……!」
「おやおや、ありがとうございます」

 褒めてないですよ! そう口を尖らせて言えばすみませんと体温と共に頭を優しく包まれた。ふわりふわりと離れては消えていく温もりが心地よくて、ついつい目を細める。しばらくするとそろそろ痺れは収まりましたかと問われ慌てて上半身を起こした。
 視線をいつも通り前に移せばいつの間にか彼は私の前へと移動していて、あれ、しかし彼の手はそのまま頭の上にあるような。慌てて視線を外し近くにたまたま置かれていたお茶道具を意味もなく音を立てていじってみる。……何だか、その、恥ずかしい。

「……そろそろ始めますか?」
「え、あ、はい!」

 何を? と一瞬聞き返してしまいそうになったけど、そういえば今回の目的はお茶を振舞うことだった。
 そしてそれとは違うもう一つの目的。どちらかと言えば私にとってこちらの方が本題な気はするのだけれど、それはまあ……。お茶を淹れ終わって、少し落ち着いてから相談してみようかな。
 では道具を取ってきますね、と立ち上がった拍子に離れてしまった彼の体温を少し寂しく思いながらも、そそくさをその場を立ち去った。


お茶の時間
(上手に淹れられますように)